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Web漫画は未開拓のフロンティアだ2009-04-14


最近、Web 漫画界隈がにわかに熱を帯びてきている感じがします。
2つの有名な Web 漫画が、ブログで紹介されて多くのブックマークを集めました。 

全描写が伏線のWeb漫画、 『胎界主』 が凄い、本当に凄い

144ページ完結のWeb漫画『DUDS HUNT』が凄い、本当に凄い

この「胎界主」と「DUDS HUNT」ですが、Web 漫画に長年関わっている者としては、基本中の基本、超当たり前の良作です。
正直に言って、いま紹介されている事については今更感が満載なわけです。

ところが、これほど多くのブックマークを集めるという事は、すなわち、比較的ネットリテラシーの高いはてなユーザでさえ、Web 漫画に関して良く分かっている人は一握りしかいないという事です。
ましてや、一般人ならなおさら良く分かっていない事でしょう。 

昨今、紙媒体の衰退が叫ばれ、特に情報誌などにおいて休刊が相次ぐという状況が発生しています。一般人も含めて、「わざわざ雑誌を買わなくてもネットで調べればいいじゃないか」という層が増えた結果だと思います。
今後、こういった流れが漫画界にも波及してくる可能性があるのではないでしょうか?

現状、ほとんど一般には認知されていない Web 漫画ですが、今後の展開次第では非常に大きな市場に育つのでは無いかと思います。
もちろん、各出版社もそういった流れが存在する事は認識した上で、Web における漫画の配信を始めており、携帯向けコミックでは一定の収益を上げているケースもあるようです。
しかしながら、金額で言えば微々たるもの、とても収益の柱にはなり得ていないのが現状ではないでしょうか。 

一方、「ブラックジャックによろしく」「海猿」で有名な漫画家の佐藤秀峰先生が、今後は出版社で紙媒体による連載を持たず、Web 上での連載を行っていくと発表したそうです。

『新ブラックジャックによろしく』が最後の作品になると思います

ご本人も言及されているように、これは大きな実験になるのだと思いますが、漫画家が個人で独立し、直接読者に作品を届けるという事が現実的になってきた場合、そこには来るべき未来の Web 漫画界があるように思えてなりません。

出版社ではなく、漫画家個人と直接契約を結んで、課金・配信を効率よくやるシステムを握れば、来るべき Web 漫画界の覇者になれます。
現状でそういったサービスも実際に存在しますが、覇者と呼べる程ではないです。

Web 漫画界の覇者となるのに重要なのは、規模とデバイスです。 
現在の類似サービスが覇者になり得ていないのはこの2点に尽きます。
簡単に言えば、「Web 漫画版 iPod と、iTunes Music Store を作れ」という事です。

通常、漫画を読むシチュエーションを考えた時に、わざわざ PC の前に行って読もうとする事はまれです。さっと開いてさっと読めるその気軽さが無ければ、大きく普及する事はないでしょう。
通勤・通学の暇つぶしで読むのなら、なおさらそんな大袈裟な事はしませんよね。

だからこそ携帯向けのサービスが一定の成功を収めているのだと思いますが、携帯向けに漫画を配信するためには、元の漫画を携帯向けに加工する必要がありますし、大ゴマ、見開きの迫力なんて、要求しようがありません。
漫画家としての視点で見れば、携帯向け漫画はあまり魅力的に映らないのでは無いでしょうか。 

そこで専用デバイスです。アメリカで amazon が販売し、目下大ヒット中の Kindle というデバイスをご存じでしょうか?
読書に特化し、文庫のような使い勝手を実現したデバイスで、本をデータで販売するという事をまさに実現しています。

この Kindle を拡張して、漫画も読めるようにしたらどうでしょう? 

月額固定料金で、毎週月曜日の朝には週刊少年ジャンプが自動的にダウンロードされているとしたら?
ワンピース最新刊発売と同時に、ダイアログがポップアップして 1 週間レンタル 150 円くらいでダウンロードできるとしたら? 
単行本最終ページに amazon への注文リンクがあって、欲しければ 150 円値引きされた額で、 紙媒体の単行本も amazon が届けてくれるとしたら?

どうですか?この条件なら欲しいと思う人は多くないですか?

amazon 程の会社規模があれば、サービス開始時に大手出版社と契約を結ぶ交渉が可能ではないかと思います。
かつて音楽レーベルが次々に Apple と手を結んだようにです。 

Kindle というキラーデバイスを持つ事、出版社との力関係において見劣りしない事、これらを考えると、もはや amazon が Web 漫画に進出するのは必然のように思えてきます。

そして上記のようなサービスを開始し、下地を固めた後に待っているのは真の自由化です。

──201x 年、amazon はかねてから行っていた大手出版社との漫画配信契約に加え、個人の漫画家を対象とした登録サービスを開始しました。
印刷コスト/流通コスト/中間マージンを廃し、漫画家自身から読者自身へ直接作品を届ける事が可能になったのです。 

──1年後、多くの利用者の声に推され、amazon はセミアマ漫画家を対象とした単行本出版サービスを開始しました。
ダウンロード販売の実績を踏まえた正確な需要予測に基づき、在庫リスクの最小化と販売価格の適正化を実現。最小部数 1,000 部から収益化できる理想的な出版環境です。
これにより個人漫画家が真に独立するプラットフォームが実現したのです。 

──さらに1年後、amazon は Kindle 4 で Web 漫画 API を大幅に拡張し、セリフ部分と書き文字の外部化と、コンポーネント化を進めました。同 API に対応した漫画であれば、音声による読み上げや翻訳作業の効率が革命的に向上します。
従来より評価の高かった日本の漫画コンテンツが、今後より広く世界に広まっていく事でしょう。
 
そんな未来。面白そうじゃないですか。

Web 漫画は未開拓のフロンティアだ。

追記 (2009-04-21)

佐藤秀峰先生は、独力で Web 漫画の有料配信を始めるようです。また詳細の紙媒体化にも言及しています。
この流れは注視していたいと思います。
「新ブラックジャックによろしく」が作者公式サイトにて1話30円でまもなく読めるように、新連載も準備中


カテゴリ: Webcomic タグ: amazon kindle