東京とそれ以外の道府県における学習環境格差について都道府県別に図書館と博物館の数をビジュアライズして論じる

以前から、日本国内において東京とそれ以外の地域では学習の環境に大きな違いがあるという持論を持っています。現代ではネットを利用することで地理的な制限無しに様々な情報を得ることが出来るようになりましたが、博物館・科学館・美術館のような文化施設は東京に偏在しているように感じます。東京に住みそれらへの平易なアクセスを得るというのは、学習環境としては大きなアドバンテージではないでしょうか。

しかし、ただ印象論だけで語っていても説得力を持たないので、政府統計から信頼できるデータが簡単に得られた、図書館と博物館の数についてビジュアライズをしてみることにしました。

方針

実際のところ、この手の統計では単位人口当たりの施設数を論じることが多いですし、例えば「人口 10 万人あたり n 館の図書館があれば良い」などとするのは妥当なように聞こえます。しかし、実際の利用シーンを考えた場合、むしろ単位面積あたりの館数の方が重要です。なぜなら、読書好きの小学生が本を借りたいと思った時に、自転車を 5 分走らせたところに図書館があるのと、親に車を出してもらって 30 分してようやく辿り着くようなところに図書館があるのとでは大違いだからです。博物館だって同じ事です。週末にふらっと 1 時間以内で遊びに行ける博物館が市内にひとつしか無いのと、何十もあるうちから月替わりで選べるのとでは大違いです。

そこで、単位面積当たりの施設数をその指標としてビジュアライズする事にしました。しかし、単に都道府県の面積でそのままに割ると、森林や山地など居住可能でない面積の広い都道府県は不利になり、実態に即さないデータになってしまいます。そこでいったん、面積に関しては各都道府県の面積に可住地面積割合として公表されている割合を乗じたものを使用する事にしました。
しかしその面積を元に計算を進めたところ、北海道に関して直感に反する極端に低い数値になってしまいました。怪しく思ってよくよく調べてみると、可住地面積割合とは簡単に言えば「開墾済みの土地全て」を表しており、そこには農地が含まれていることが分かったので、農地面積を減じたものを最終的な市街地面積として採用しています。式で表すと「総面積×可住地面積割合−農地面積=市街地面積」になります。
また比較のために、単位人口当たりの施設数も合わせてビジュアライズします。

図書館数

現在、日本国内にある図書館の総数は 3,360 館で、日本の市街地面積の合計が 799.13 (単位 100km2) なので、100km2 当たりの図書館数の全国平均は 4.20 館になります。これは、10km 四方のエリアに 4.20 館の図書館がある事に相当します。全国平均で見ると、前述の「小学生が自転車で 5 分」からはほど遠いことがイメージできるかと思います。

都道府県別 100km2 当たりの図書館数

最高は東京の 29.42 館、最低は北海道の 1.23 館です。北海道に関して、農地面積を減じて検討する前はこの約半分の数値だったのでだいぶ是正されたとは言えますが、土地利用に関して北海道はやはり特殊な環境である事が影響していると思われます。ただ全体として見るとやはり人口密度との相関が見て取れ、東京の 29.42 館に対して次点の大阪でも 12.24 館と二倍以上の開きがあり、それ以外の道府県では全て 10 館未満でした。少なくとも図書館へのアクセスの良さに関して、東京が抜きん出ていることが分かります。

都道府県別人口 10 万人当たりの図書館数

一方、人口 10 万人当たりの図書館数で見てみると、格差が大きく是正されている “ように” 見えます。恐らくこれが基準として目指されているところなのでしょう。神奈川や愛知でむしろ少ないのが意外に思えます。しかし前述のように特に図書館のような文化施設はアクセスの良さが重要で、単位人口当たりの施設数は重視されるべき指標ではないと考えます。

博物館数

博物館についても図書館と同様に全国で計算すると、100km2 当たりの全国平均は 7.19 館になります。図書館に比べて数が多いのは、図書館が人口当たりでなるべく均等になるよう配置されているのと比べて、博物館は地域によっては面積比でも人口比でも多く作られているためです。

都道府県別 100km2 当たりの博物館数

やはり東京が一番博物館へのアクセスが良いというのは変わりませんでしたが、図書館ほど飛び抜けている訳ではないのが分かります。一般的に図書館は施設ごとの特色が少なく極めてニュートラルな施設である一方、博物館は施設ごとに特色を持つので、地域によって博物館が多く作られやすい背景を持っているのが理由であると考えれます。分かりやすいのが京都や石川で、歴史的な文化財が多い事から博物館が多くなるのも必然と言えるでしょう。
また、博物館には公的な施設以外にも私設の博物館が数多くあり、設立・運営費用に関しても小振りの博物館であれば図書館に比べてコストがかからないのも、各地に博物館が作られる理由ではないでしょうか。

都道府県別人口 10 万人当たりの博物館数

博物館数を人口比で見ると、面積比で見た場合とは全く異なった様相になります。東京など極端に人口が多いところで数値が小さくなるのは理解しやすいとして、長野、福井、島根など誤解を恐れずに言えばマイナーな県で人口の割に多くの博物館が作られているのは何故でしょうか?これに関しては、公共事業としてハコモノのひとつとして建てられているのではないかと分析している記事がありましたが、真相は分かりません。

公共事業費とも正の相関があり、公共事業が盛んなところで博物館が多いことから、ハコモノのひとつとして博物館が建てられている可能性も考えられる。
博物館数 [ 2015年第一位 長野県 ]|都道府県別統計とランキングで見る県民性 [とどラン]

まとめ

東京での図書館や博物館へのアクセスの良さは、実感としては持っていたもののデータとしても示された形になりました。子を持つ親としては、休みの日に博物館 (あるいは科学館・美術館) に親子で出掛けたり、子供が気軽に図書館で本を借りられる環境というのは大事だし有り難いと思っています。それらは学習塾などと違ってすぐにテストの点に反映されたりするようなものではありませんが、長期的には大きな意味を持ちます。例えばいわゆる教養として、あるいは高校・大学に進学して何かを学びたいと思うようになるきっかけとして。
これら施設が土地に結びついたものである以上、地域による学習機会の差は残念ながら固定されたものであると言えます。都内あるいはそれに準ずる地域に住んでいる人は、意識せざるしてその利益を享受している人が多いと思われますが、恵まれていない地域に住む親はその差を認識して意識的に埋めにいかないと、格差は固定されたままになります。むろん親の助けなど無くても、幼少期は片道 1 時間の図書館にずっと籠もっていた子供が大人になって大成した話などはよく聞きますが、彼らは特異点です。珍しいから本や記事になるのです。東京以外の地域での学習環境が急激に改善する見込みはない ─ 無い袖は振れない ─ 以上、親世代はその格差に意識的になる事が大事なのだと思います。

データ

図書館
平成30年度 社会教育調査 設置者別所管別図書館数
博物館
平成30年度 社会教育調査 設置者別博物館数
平成30年度 社会教育調査 設置者別博物館類似施設数
※博物館には博物館法の適用を受ける登録博物館と、文部科学省の統計で博物館類似施設と呼ばれる法定外の博物館が存在するが、一般感覚で両者は区別しないのでここでは合算した値を扱う。
面積
2019年 社会・人口統計体系 自然環境
平成30年 作物統計調査 田畑別耕地面積
人口
平成30年10月1日現在人口推計
集計
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